港まつり(1)

村の真ん中を東から西に、まっすぐに走っている道があります。いつか、あの道子ちゃんのおとうさんが落ちた道です。

これは、済む人の少ない山国を、村から村へ、また町へとつなぐたった一本の第二国道でした。あるときは峠をこえ、湖を渡り、林をぬけて、いつかは海の見える豊かな町へ出て行くといわれています。あの道子ちゃんも、きっとその町に住んでいるのでしょう。いってみたいな、束はよく思いました。

このいくつかの山を越えてゆく遠い港の町を、草深い山国の子供たちはあこがれていました。いつかは若者になって、希望に胸を弾ませながら、この道を通り、まだ一度も見たことのない町へ働きに行くのです。

もう山や野には春が来て、道のレンゲの花がおとぎの国のちょうちん行列のように並び、そらにはひばりがさえずっています。束は郵便箱のおじさんと、しきりに話をしています。

「そんなに海のある町が見たいかい?」

「うん!素敵なところだろうな。」

おじさんは、しばらく考え込んでいました。

「そうだ、いいことがある!来月の一日から、あの町に港まつりがあってね、いつもすごい人出だ。そうだ、君はお父さんに頼んで、二人でこんにゃくを売りながら、ついでに港まつりを見物してきたらどうだろう?」

「うん!ぼく、そうするよ。ありがとう。」

次のページへ

目次へ戻る