母リスと子リス(2)

ゆっくりと、宙に浮いた車は、かめの子のようです。監督らしい黄色いヘルメットの人が、てを振って静かに車を地面にすえました。見ているみんなの口から、ため息が漏れます。

さっきの運転手さんは、にこにこしながら、みんなの見ているところにちかずいてきました。

「束君、ありがとう。君のおかげで、車をすぐに出せた助かりました。じゃあ、さようなら」

頭を下げると、おじさんは、車が何処も痛んでなかったのでしょう、そのまま運転して、たちまち遠ざかって行きました 。クレーン車もゆっくり帰り始めます。先生も生徒も、ぞろぞろ教室に戻りました。

教室に戻ると、春山先生はいいました。

「いいか、みんな、今見ていた様子を、この時間に作文に書くことにする。いいね!」

生徒たちは、顔を見合わせました。

「なあんだ、ちょっぴり時間が長いと思ったら計略だったのね。がっかりだわ!」

と勇敢にいう女の子もあります。春山先生は、丸い顔をわざとしかめて、「計略とは何だ?あれは、大切な社会見学をさせてやったんだぞう。」

束は、好きな詩を書きました。

    「黒い土がぱっくりと食いついたように

    自動車は半分 前の方を田んぼに突っ込んでいた

    エンジンは逃げようとするように

    がががっとうなりながら 必死に後ずさりする

    でも 意地悪田んぼはがっちり くわえてはなさない

    はやくクレーン車 こないかな。」

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