母リスと子リス(6)

束は道のない草むらを、何度か足を取られて転んだりして、やっと郵便箱の見えないところから、山に入りました。でもまだ、

「おい!束君。ちょっとまてっ。」

と言われそうで、何度も後ろを振り返りました。

山間の小川に沿った道を登ると、「深い木立に囲まれたきれいな湖がありました。

水面から白いもやの立ち上る神秘的なところです。岸から真ん中に向かって、古いヤマモモの木が一本、乗り出すように茂ってました。

「ああ、あのほら穴にいるんだな。」

と思いました。一抱えもあるヤマモモの木の、地上から3メートルくらい上の所に、ぽっかりと黒い穴が開いています。お父さんがリスを見たというのは、そこでしょう。

夏になると、キャンプする登山者がテントを張っていることもありますが、今は人影ひとつありません。束は、足音を忍ばせて木に登ると、そっと穴の中に手を入れてみました。動物のすむにおいがします。

穴はずっと深いようでした。手に触ったのは、腐った木くずだけです。

もしかしたら、ほかに抜け穴があるかもしれません。それとも奥の方で、のんきに昼寝でもしているのでしょうか。

束は下におりると、もってきたピーナッツをひとつかみ、口の所に置きました。木が斜めなので、うまいぐあいです。その周りに鳥もちをぬると、急いで隠れました。

だがいつまで待っても、リスはあらわれません。

そのうちに夕方がちかずいてきました。

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