ベレー帽のおじさん その2

はじめはどこをかいているか、ちょっとわからなかったおじさんの絵も、じっと見ていると、だんだんはっきりしてきました。

 白かべの家、青い屋根、そしてバックは紅葉の林の向こうに、もう白い雪を少しつけはじめた遠い 山々。

それは晩秋の山里の、ゆったりと落ちついたありさまをよくあらわしています。

なかでもいちばん束が気にいっているのは、バス駅の赤い郵便箱がまん中にかかれていることです。

 束は大好きな郵便箱の色を、早くぬらないかなと思っていました。

で、とうとうしびれを切らしたようにききました。

「赤い郵便箱の色、いつぬるの?」

いつの間にか、お友だちになっていたおじさんは、突然きかれたので、ちょっとびっくりしたように答えました。

「おやおや? 束君はばかにポストが気になるんだねえ。ここは絵の中心だから仕上げのとき、よくバランスを考えてかくのさ」

 束は大きな目をいっぱい開いてこっくり。

「早くかくといいな」

 と、またひとり言のようにいいました。

「どうして? そんなに気になるの」

「それはね」

束はちょっと口ごもりました。そしてさも重大なことを打ちあけるように、画家の耳に口をよせると、

「あのね。おじさんだけにいうんだけどさ、赤い郵便箱はぼくの友だちなんよ」

「ふうん。郵便箱の友だちなんておもしろいね。どうして友だちになったの?」          

 おじさんはまじめな顔でききました。

次のページへ

目次へ戻る