自然のおきて(1)

トラックは、ガタガタと飛び上がるように走っています。でも、おとうさんは、ほくほくしていました。こんにゃくは全部売り切れたし、お金もたくさん入りました。帰る日を一日繰り上げて、束とお父さんは、村の方に行く長距離トラックに揺られていました。

「よかったね、束。今度の港町のこんにゃく売りは大成功だったよ。」

お母さんの土産に買った貝殻の首飾りを見ながら、おとうさんはいいました。

きっと、おかあさんは首を長くして、まっていることでしょう。早くよろこぶかおがみたいな 。

景色は、家の立ち並んでいた町から村へ、そして田園へと移り変わってゆきます。まだいくつかの山道を越えていかなければなりません。

「だが、やっぱりすんでいるところが一番いいよ。空気はきれいだし、静かで、自然の中で暮らせるもんな。」

お父さんは首を振りながら、自分のふるさとのよさを自慢し始めました。

でも、束は少し違ってました。

道子ちゃんと歩いた、あの活気ある港町のたくましい生活が魅力でした。学校の立派な建物や広い校庭、本屋さんの店先に、一杯積まれた本の山。

「僕は大きくなったら町へ出て行って、働きながらでも勉強するんだ。」

と、自分へ誓うようにきっぱり言いました。それは少年期に入りかかった束の心に、町で見たたくましい生活の力が、独立心を目覚めさせたのかもしれません。

 

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